Q.10 日本語にない文法を学ぶのに大変苦労します。やはり耐える必要がありますか?
そうですね。それはある種致し方ないと言えます。
外国語学習すると必ず「拒否反応」が起きます。例えば「冠詞」(an / a / the)なんかは日本語にないので、強い拒否反応が出ることでしょう。
冠詞は、文中に出てきた名詞にどういった特性が備わっているか、どういった意味を込めてその名詞が使われたかによって、a(n) を使うのか the を使うのか、はたまた、使わないのが決定されます。
日本語には冠詞がありませんので、習得するとなると相当の時間と労力がかかり、その結果として大きな「苦痛」が伴います。
この「苦痛」こそが「拒否反応」であり、外国語を学んだ際の自然の反応ともいえます。
「冠詞」以外にも、「分詞」や「関係代名詞」、「現在完了」といった日本語には存在しない文法事項や、日本語を単に訳しただけでは意味が通じない英語(例えば、道を譲ってもらったり、お店の店員を呼んだりする際によく使用する「すみません」が、英語では I'm sorry.とは言わないことなど)にも「拒否反応」が発生します。
これらの「拒否反応」を一言でいえば『めんどくさい違い』ということになりますが、これらの「拒否反応」とどう向き合っていくか(ときに耐えていくか)が言語学習のキモともいえるでしょう。
まるっきり英語ができない高校生時代、私は英語ドベクラスに所属していました。そのドベクラスを担当していた先生から、初日の授業に次のようなことを言われたのを覚えています。
『英語ができる人は相対的に我慢強い。いや、もしかしたら、英語ができるようになるにつれて、我慢強くなったのかもしれない。社会に出たら様々な苦労に耐え、それを乗り越えなければいけない。英語ができる人は英語ができない人よりも生涯年収が高いと言われるが、それは英語ができるから高いのではなく、苦労に耐え、それを乗り越えたことで、それ相応の評価を受けたからだと考えるほうが妥当だろう。英語学習は一つの精神修業の場であり、苦手な(大嫌いな)英語を克服することが、今後のみんなの将来にも大きく影響すると思う。だから、頑張って英語を勉強しよう!しかも、使えると世界が広がって楽しいぞ?』
Q.11 文法や英文解釈の問題集はやる必要ありますか?
これまでの学習の確認や知識の定着のために、問題集を利用することはとても大切です。
しかし、ただ問題を解くことだけに集中してしまうと、〈理解〉という点が疎かになる恐れがあります。特に、理解するのが難しいものの場合それが顕著になります。
もちろん、覚えたほうが簡単なものもあります。例えば、慣用句やことわざは覚えたほうが早いでしょう。
しかし、1を1ではなく、1を2や3に膨らませていくためには〈理解〉が欠かせません。
誤解を恐れずにいえば、理解力を上げると暗記数が減るのです。
大人というのは子どもよりも経験が豊富であるがゆえに理解力(物事を客観視できる能力)が高いのがふつうです。
であれば、それを学修に応用しない手はありません。
しかし、いわゆる「勉強」は、子ども時代に主に行なわれるため、大人になっても子ども時代の学習方法(癖)が抜けない人がいます。その結果、大人にとってはあまり得意ではない、単なる暗記の繰り返し(暗記ゲーム)が始まってしまい、急速に学習意欲が削がれます。
したがって、大人になってからの学習は、すべてではないにしろ、子ども時代の学習と決別し、新たな学習方法を見つけることが大切です。
大人であれば大人の武器を使って学習に臨まれるのが賢明でしょうね。
話が逸れてしまいましたが、問題集を扱う場合のもう一つの注意点としては、〈受験用〉問題集ばかりを使用しないように注意しましょう。
「〇〇問題集」という場合、多くの人は受験用の問題集を使用する傾向にありますが、それらはあくまでも〈受験のために〉編纂されたものですので、必ずしも明日に使える内容にはなっていません。
特に「受験的な」英文解釈に慣れすぎると、そこから離れられず、英語を読む際にいつも「分析的な読み方」をしてしまいます。ときに分析しながら読むのは大切ですが、いつも分析をするのは非効率であり、現実的でもありません。
分析はそれが必要なときにすれば良いと考えておくのがベターでしょう。
英語を左から読んでいき、そのまま意味がわかるのであればそれで良し(究極的には訳せなくても良いでしょう)。どういう意味かな?と疑問符が付くのであれば、少し分析してみるというのを習慣づけるのが良いと思います。
「英語力=受験英語力」では決してありません。もし問題集を購入される場合は、その点にも十分して、そして、自らの足を書店に運んで、購入されることをおすすめします。
Q.12 LINE 翻訳や Google 翻訳の訳は正確ですか?間違って訳されるときもありますか?
時に正確ですが、時に間違っていることもあります。誤解を恐れずに言えば、自動翻訳機はまだ未完成な状態です。
自動翻訳機を使ってみて、『何かこの英語おかしくないか?』や『明らかに直訳した感じ?』と思った経験はありませんか。
例えばですが、「猫の手も借りたい」を翻訳機に通すと ‘I want to borrow the hands of cats.’ といった英語が出てきたりします。これでは直訳感が強く通じないことは明らかです。
「猫の手も借りたい」を意味に忠実に訳せば ‘I need your help.’ や ‘I'm very busy.’ といった表現になるでしょう。
伝えたい内容を訳してこそ「訳」と言えます。
また、自動翻訳機が本当に完成しているのだとすれば、「日本語⇒英語」と翻訳した後に、「英語⇒日本語」と翻訳しても、基本的には同じ文が出てくるはずです。しかし、やればやるほど違う文になっていきます(今では改善されているのかもしれませんが)。
将棋や囲碁の世界ではAIが人間を上回る時代が来ていますが、言葉というのはそれ以上で、何億通り、何兆通りのパターンがありますので、精度が上がっているのは事実ですが、完成までにはもうしばらくかかることでしょう。
Googleを始めとする ‘超’ 大企業が自動翻訳機の開発に力を入れていますが、それでも完璧なものがまだ出来ていません。そのぐらい、翻訳機の開発は難しいということです。
とはいっても、日々進化しているのは事実ですから、そう遠くない未来に完璧な翻訳機が出るかもしれません。
そうなれば、間違いなく外国語を学習する世界人口は減ることでしょう。
しかし、自動翻訳機が出来たからといって、外国語学習をしないというのは非常にもったいない気がします。
外国語、つまり、母語とは違う言語を習得することで、皆さんの ‘脳’ 力は格段に向上します。
これまでの研究で、単一言語話者より複数言語話者のほうが認知レベルが高いことがわかっています。要するに、二か国語以上話せる人のほうが頭が良い、ということです。
それは例えば、電卓や関数計算機があるからといって算数の勉強がなくならないのと同じように、機械があっても算数の勉強が必要なのは、数学的な思考力を鍛えるためであり、その ‘脳’ 力が社会生活において役に立つことがあるからです。
先ほど、自動翻訳機は未だ未完成と話しましたが、皆さんは LINE 翻訳や Google 翻訳を使ったことがありますか?
使ったことがあるのだとすれば、皆さんは自動翻訳機の開発に貢献したことになります。
なぜなら、どういう表現がよく翻訳機にかけられ、どのような誤訳をしてしまうのかを開発者は知り(そして、改良し)たいからです。
IT によって大きくなった企業は、このようなビックデータの収集に長けており、そのデータを元に製品を開発します(Google 社もその1つです)。
「無料」という甘い蜜を使って大きな魚を釣る、というのが狙いです。
将来、完全な翻訳機が完成したとき、その製品はみんなにとってたいへんニーズが高いことでしょう。となると有料にしても…
さぁ、未来はどうなるでしょうかね。
Q.13 少しぐらい間違えていても通じるので、文法などの細かいことは気にしなくても良いですか?
通じるという意味ではOKですが、学習という意味ではあまり推奨はできません。
正しく使おうとした結果として間違えを犯してしまったのであれば何ら問題はありません。しかし、はなから「通じるから良いだろう」という考えは少し危険です。
キャッチボールで例えるなら、「相手が取れればどこに投げても良いだろう」と言っているようなものです。このような気持ちでは上達するのに相当の時間がかかります。
一方で、「いつも相手の胸に向かって投げているつもりなのに、どうしても違うところに飛んでしまう。次はちゃんと胸に届くよう頑張ろう」という向上の気持ちで取り組んでいると、やはり成長も目覚ましくなります。
ただし、失敗を恐れるあまり "ボールが投げられない" 状態になってしまうのもよくありませんので(日本人にはこのケースが非常に多い)、この辺りはうまくバランスを取って、「間違えても良いから使う」けれども、「間違えたものは次には間違えないように頑張る」という精神状態が外国語学習にはベストかと思われます。
Q.14 国語が得意なら絶対英語もできるようになると言われたことがあるのですが、実際、関連性はあるのですか?
確かに「国語ができると英語もできる」というのはよく聞きますね(以下、「得意」=「できる」として話を進めていきます)。
以下、長文になりますが、ご了承ください。
「国語ができると英語もできる」というのは事実ですし、関連性もあります。
しかし、このことを正しく理解するには「国語ができる」というその中身が重要になります。
多くの人が言う「国語ができる」というのは、学校の成績、すなわち、テストの点数が良いということを指しているものと思われます。
そして、学校の国語のテストというのは、主に「読解問題」で構成されています。一部、漢字や慣用句といった知識を問うケースもありますが、高得点を取れるかどうかは、やはり「読解問題」の出来不出来にかかっています。
したがって、「国語ができる人」というのは、概ね、「読解問題がよくできる人」のことを指しているわけです。
しかし、そういった学校教育で求められるほどの「(高度な)読解力」は、英語初級者にとってはそれほど重要ではありません。ここで言う初級者とは、中学生ぐらいの内容が怪しい学習者のことを指していると理解してください。
例えば、Do you have the time?(時間を確認する道具を何か持っていますか)という質問に対して、皆さんならどう応答しますか。
おそらく、It's seven ten.(7時10分です)と答えることでしょう。もちろん、Yes, I do.(はい、持ってますよ)と答えることもできますが、これはふつうではありません(あえて、いじわるをしたのであれば別ですが)。
これは、上記の Do you have the time? という質問は、〈時間を尋ねている質問〉と理解するのがふつうだからです。そして、このような会話の流れを当然だと感じる人は、すでに外国語を運用するだけの十分な「読解力」が備わっています。
ちなみに、上記のようなやり取りは、小学校中学年以下(10歳未満)の子どもには難しいとされます。
「文字通りのやり取りだけが会話ではないんだ!」ということを年齢を重ねながら、周りの環境とともに人は学んでいきます。
早期英語教育に警鐘を鳴らす人たちは、「このような社会性を身につけずして、何が外国語だ!」と苦言を呈しています。
話を戻し、結論を言えば、「国語が得意=読解力が高い」は初級者にとってはあまり意味を成しません。むしろ大事なのは、言葉に対して敏感になる「国語力」です。
例えば、
①「お父さんはテレビを見ている」
②「彼女は結婚している」
は共に「~ている」で終わっていますが、①と②の「~ている」の意味は同じではありません。したがって、英語にすると表現が異なります!
両者の違いが説明できるに越したことはありませんが、説明できなくても「何かが違う!」ということがわかるだけでも十分な「国語力」があると言えます。プチテストとして、次の③の「~ている」は、①と②のどちらの仲間でしょうか。
③「これは鉄でできている」
答えは、「②」です(空白の箇所はドラッグすると見えるようになります)。
そして、③と「②」が同じ仲間ということは、英語でも同じ表現が選択されます!
このような「国語力」、よりわかりやすく言えば、言葉に対する「‘敏感’力」が言語学習では重要です。そして、この「敏感力」は外国語を学ぶことでより促進されます。
普段何気なく使っている自分たちの母語を意識的に捉え直すことで、新たな ‘脳‘ 力が育ちます。
また、この「敏感力」は暗記では鍛え上げられません。必ず思考と理解を伴った学習が必要となります。外国語学習に暗記は欠かせませんが、やりすぎは危ないのです!
※①,②,③の英語は以下のようになります。
① My father is watching TV.
② She is married.
③ This is made of iron.
以上が多くの人が言う「国語ができると英語ができる」の中身(真相)ですが、こういったことをしっかりと伝えず、『キミは国語ができるんだから、絶対(いつか)英語もできるようになるよ!』だけでは、もしあまり英語力が上がらなかった場合、逆にその人たちをを落ち込ませる結果になってしまいます。
この点は、自戒を込めて注意していかなければいけないことでしょう。
長くなったついでにもう1点ほど。
「英語が苦手」という人の多くは、英文読解が苦手と考えているそうです。
さらに、その中身を見てみると、どうも訳すのが苦手と考えているようです。
しかし、「訳する」というのは、単に英語力だけの問題ではなく、日本語への「変換力」の問題も関わってきますので、うまく訳せないからといって英語が苦手と考えるのは早計です。
この日本語への「変換力」は、先の「敏感力」とは異なる別の国語力です。
例を2つほど紹介します。
④This road takes you to the station.
(この道があなたを駅に連れていく)
⇒(この道を行けば、駅に着く)
⑤Not all of them needed be present at the meeting.
(彼ら、彼女らの全てが会議に出席している必要はなかった)
⇒(会議には何人か出席していればよかった)
このような「変換力」を身に付けるのも外国語学習では重要であり、このことを意識していかに中高の英語に触れてきたか、もしくは今後触れていくかは英語学習にとってとても重要であると言えます。
Q.15 英語嫌いな子に英語を教えるときのポイントを教えてください
英語が嫌いになってしまった原因が何かわからないためアドバイスしづらいのですが、英語嫌いな子に対する対応として必ず行わなければいけないのが「やってみたらできる」というチャレンジと成功の体験です。
英語に限らず、「やってみてもできない」という失敗体験の繰り返しによって、「嫌い」というレッテルが貼られてしまいます。
例えば、「一生懸命聞いているのにちっともリスニングができるようにならない」や「単語を覚えたのに(文章に)出てこない」、「英語を何年も勉強したのに話せるようにならない」といったものがそれに当たります。
そして、英語ギライの多くの中高生(そして、大人)が上記の失敗体験を持ち、その結果、英語をやらないための ‘理論武装’ を行ないます。その ‘理論武装’ とは例えば、
海外なんて行かないし!
英語なんかできなくても生きていけるし!
自動翻訳機があるじゃん!
といったものです。
これらのセリフは、失敗体験による英語嫌いが起き、英語をやらないためことを正当化させるためのものです。
一方で、英語好きの人たちは多くの成功体験を持っていることがわかっています。具体例は省きますが、「やってみたらできた」というチャレンジと成功の積み重ねが彼ら彼女らの英語学習を支えています。
現在英語嫌いの人も何も始めから英語が嫌いであったわけではないはずです。
チャレンジと成功の体験こそが外国語学習にとって最も重要な要素だと考えられていますから、良い体験をどんな小さなことでも良いのでさせてあげて、少しずつ英語への想いを復活させてあげることが良いと思います。
Q.16 「中学校3年間の文法を〇〇時間で分かる」といった本を使って学び直してみようと思ったのですが、わからないところがけっこうありました。これは自分の基礎がボロボロということでしょうか?
このご質問で非常に気になるのが、どこのどういったところがわからなかったのかという点です。
本による学習ということは、それは自力による学習ですから、「何がどうわからなかった」かすらわからない状態なのであれば(この状態は実は非常に多いので過度に気にする必要はありませんが)、'自学自修' のための前提知識や思考力が欠けていると言えます。
なんとか頑張ろうとやる気を出し、「良さそうな本」に手を伸ばしても、それを自力で行なう力がないという何ともやるせない状態です。
例えるなら、1万円が必要だったので日雇いのアルバイトを申し込んだら、登録料2万円を要求されたかのような矛盾です。
実際、本による自学習が出来る人はすでにそれ相応の力を持っています。
確かに基礎がボロボロの可能性もありますが、他の要因による可能性もありますので、困っているときこそ、人に相談するのが良いかと思います。
Q.17 外国語の上達のためにはその国の恋人を作ることが一番の近道だと聞いたのですが、本当ですか?
本当といえば本当でしょう。
とだけ鵜呑みにしても良いのですが、少し中身について考えてみましょう。
まず、なぜ異性が外国人だと良いのか。
それは大きく2つの理由によります。
①使う機会が圧倒的に増えるため
②「伝えたい」という気持ちを強く持つようになるため
外国語(というより、言語)を習得するには、当然ながら、相応の練習量が必要です。
ここでいう「練習」とは、単に話すことだけを指しているのではなく、聞いたり、読んだりすることも含んでいます。
我々は自然に言語(母語)を習得したと思っていますが、自然に言語が習得されることは決してありません。
今のレベルに到達するまでに、膨大な時間(練習量)と数えきれないほどの失敗、そしてそれの修正を行なってきました。
その結果、(やっとの思いで)言語を使用することが出来ています。
そしてその裏には「圧倒的な使用機会」があり、周りの環境がそれを可能にしてきました(日本に住んでいれば、日本語を使用せざるをえない環境にある)。
一方、外国語となると、使用する機会は学校などの環境に限られています。
しかし、友人や恋人などがいれば話は違います。
友人であれば週1度程度は連絡を取る機会があるでしょうし、恋人であれば毎日何らかの連絡を取ることでしょう。
となると、その言語を使用する機会、すなわち練習量が圧倒的に増え、その言語が徐々にできるようになっていくわけです。
そしてもう1つ、言語習得に欠かせないのが伝えたいという想いです。
そもそもなぜ言語を習得する必要があるでしょうか。言葉はただ使えても相手がいなければ何も面白くありませんし、意味もありません。
そう、言語とは相手がいて初めて成り立つものであり、自分の考えを適切に「伝えたい」という想いがあって成立するものなのです。
皆さんは自身の母語を習得したときのことは覚えていないでしょうが、まず根底にあったのは「誰かに自分の考えを伝えたい」という想いです。お腹が減っていることを伝えたい、今日あった面白いことを伝えたいといった強い想いがあるからこそ、言語は加速度的に習得されます。
この強い想いを維持させてくれる1つが恋人の存在といえるでしょう。
以上で挙げた①と②がその国の恋人がいると外国語が達者となる主な理由だと思われます。
最後に、
ある調査によりますと、〈日本人男性ー外国人女性〉のペアと〈日本人女性-外国人男性〉のペアでは、後者の方が(圧倒的に)上達スピードが早いそうです。
いくつが理由が述べられていましたが、まとめると次の3つです。
(a) 日本人男性は消極的(あまりしゃべらない)
(b) 日本人女性は積極的(よくしゃべる(特に、日常会話レベルの話は))
(c) 日本人女性は外国人男性が持つ文化的思想に馴染もうとする(日本人男性は日本の文化的思想を相手に押し付けようとする)
なかなか面白い調査だと思いました。
Q.18 英語学習において最初に鍛えるべき4技能は何ですか?
まず、4技能のおさらいをしておきます。
4技能とは「聞く listen」・「話す speak」・「読む read」・「書く write」を指し、外国語学習はこれら4つの技能を(バランスよく)鍛えることで習得されます。
なお、これらの技能だけを鍛えても本当の意味での言語習得にはなりません。
一つ例を挙げますと、席を譲ってもらった場合、英語では Thank you. とお礼を言いますが、日本語では「すみません」と謝ります(もちろん「ありがとうございます」の場合もありますが、英語では Sorry. とはまず言いません)。
これは文化的な差異から来ているもので、こういったことも本来は学ぶ必要があります。
さて、話を戻しまして、上記4技能のうち、私が思う最初に鍛えるべき技能は、日本にいても(一人でも)鍛えることのできる技能です。
例えば、「話す」技能は、一方的なスピーチなどでない限り、話し相手がないとその練習ができません。これは「書く」技能においても同様です。
しかし、「聞く」技能や「読む」技能は、相手がいなくても音源や本さえあれば練習することができます。
また、言語を習得する場合、大量のインプットがなければアウトプットにはつながらない(できないことはないが、かなりお粗末なアウトプットになってしまう)ということがわかっていますので、その意味でもまずは「聞く」技能と「読む」技能を鍛えたほうが良いでしょう。
と聞くと、『いや、話せるようになりたいのですが...』という返事が返ってきそうですね。
その気持ちは十分わかります。
ただ、使う(話す・書く)環境が整っていない状況で、その技能を鍛えるのはなかなか難しいものがあります。
使えるようになりたい... であるなら、使うための準備をしておくべきです。
それが「聞く」と「読む」です。
「聞く」技能が高ければ、相手の言ったことを理解できるだけでなく、相手のセリフそのものを「盗む」ことができます。そして、その「盗んだ」セリフを自分のものにすることで英語のバリエーションは格段に増えます。
相手がいないのであれば、英語の独り言を言うことでも話す技能が伸びることがわかっています。相手がいないので間違いを恥ずかしがることもないでしょう。
少し話が変わりますが、ある笑い話で、「話す」技能を一生懸命鍛えてある程度自分の思うことを口に出せるようになった人が、いざ外国の人と会話してみたらうまく意思疎通が図れなかったそうです。
なぜでしょうか。
相手の言っていることが(速すぎて)わからなかったからだそうです。
会話とは、相手との言葉のやり取り(キャッチボール)です。その相手の言っていることが分からず、自分のことだけを話していても会話が成立するはずがありません。
話が長くなるので「読む」技能に関しての話は省きますが、話をまとめますと、「聞く」や「読む」といったインプットが、多くの方が求めている「話す」や「書く」といったアウトプットにつながっていくというわけです。
ただ急いで付け加えますが、「話す」や「書く」の練習をする必要がないと言っているわけではありません。
今や、日本国内にいても外国人と交流する機会は至る所にありますし、インターネットを使えばさらに簡単に見つけることができます。
ある先生は『騒ぐよりも行動!』とよく言っていました。
英語学習に関して色々と〈騒ぐ〉(文句を言う)よりも、すぐさま〈行動〉に出たほうが明らかに向上が図れます。
使うための準備をし、使う機会を見つけ、積極的に使ってみる、これが英語習得のカギです。
Q.19 (英語がそれほど堪能ではない)日本語母語話者同士でも、英語を使って会話をすることで、英語力は伸びるものでしょうか?
英語力が伸びる場合と伸びない場合があります。といっても、互いのレベルや何人で会話をするかによっても変わりますので、一概には言えません。
以下、これまでの研究がわかっていることを少し紹介します。
まず、ネイティブスピーカー(以下、ネイティブ)との会話が英語力の向上につながることは間違いありません。しかし、そこには大きな落とし穴もあります。
皆さんも思わずやってしまっていると思いますが、相手が自分の言語を流ちょうに話せないと判断した場合、相手の意図や考えをくみ取ってあげようという優しさが表出します。
つまり、少しぐらい発音が変でも、少しぐらい文法が違っても、決して怒ることなく寛大な心で許し、それだけでなく、相手が伝えようとしている意味すら補完して理解してあげようとします。
道端で『えき、、いちぎゃや、、わかる?どこ?』と尋ねられたら、「市ヶ谷駅までの行き方を聞いているのだな」と理解し、教えてあげようとする心理がまさにそれです。
心優しい人は市ヶ谷駅まで連れて行ってあげるかもしれませんね。
しかし、この一連の流れを振り返ってみると、相手の日本語はかなりお粗末で、このままでは正直使い物にはなりませんし、誰かに正しい日本語を教えてもらわなければ向上も図れないでしょう。
つまり、ネイティブとの会話は相手(ネイティブ)側がしっかりと教える気で接しないと効果は得られない、というわけです。
私も海外にいるときに外国人に日本語を教えるボランティアに参加していたのですが、そこの先生に『相手の言いたいことがわかっても、正しく言えてないようなら、わからないフリをしてください』と言われたのを覚えています。
そう、その言語のネイティブが必ずしもアウトプットの良き引き出し役になるわけではありません。教えるには、やはり教えることに関するさまざまな知識が必要でしょう。
ではどういった対象が理想的なのか。
結論づけるのは難しいですが、相手も外国語学習者であると良いでしょうね。
つまり、日本語を学習中の外国人を相手に英語を練習し、必要であれば適宜修正してもらい、一定時間後には言語をスイッチして、英語を学習中の皆さんが相手の日本を適宜修正する、という方法です。
互いに外国語の学習者であるという視点が外国語学習にしばしば生じるさまざまなカベを取り除く効果があるとされ、そういった人を見つける(継続して練習しあう)とかなり向上が図れます。
私一人の少ない経験ですが、日本語を学んでいる(学んだことのある)人から英語を教わったときが一番わかりやすかったのを覚えています。
次に日本人同士の英会話ですが、ある程度のレベルに達していれば効果は十分にあります。
ここでいう「ある程度」とは、上で見たカタコトにならない程度の英語や、発音が 'カタカナ' 英語になっていないもののことを指します。
お互いに単語を言い合っているだけの会話や発音が明らかにおかしい会話をしていても、間違った練習をしているわけですから、あまり向上が見られません。
また、お互いに日本人同士だと「あー、あのことね」と勝手に補完して、間違った表現も通じてしまいます(例えば、野球の「満塁」のことを英語では Bases are loaded と言いますが、日本人同士であれば full base と(和製英語を)言っても通じてしまいます)。
だからといって、高いレベルを想定する必要はありません。
中学校で扱う単語や文法を駆使した英語を話せれば、(とりあえずは)十分な英語力を持っているといえます。
中学レベルの英語が互いに話せるのであれば、ネイティブ同士の会話に負けず劣らずの効果があります。
むしろ、非ネイティブ同士の会話の場合、自分の表現に気を使い、また、相手の表現にも気を張るので、互いの表現の向上につながります。
しかし、非ネイティブ同士だと間違いに気がつかないのも事実ですので、私は以下の方法が良いと思っています。
(a) 4, 5人グループに一人ネイティブスピーカーが入って、非ネイティブスピーカー同士の会話を監視する。
(b) ある程度の時間で区切って、その会話に見られた発音上の間違いや表現上の間違いをネイティブスピーカーを含めた全員で検討する
なぜ「全員で検討するのか」というと、教えてもらうより「気づいた」ほうが定着につながるからです。また、非ネイティブが犯す間違いというのは、その場にいる全員が犯す可能性のある間違いであるため、お互いのためにもなります。
さらに、ネイティブは非ネイティブがどのような間違いをするか(非ネイティブのことを良く知らなければ)予想できません。
であるなら、監視役に回り、そこで起きた間違いを集積して、全員のためになりそうなことを教える(そして、それを今後のためにストック)するのが効率的かつ効果的でしょう。
しかし、この私の案は人的資源が膨大に必要なため、何か工夫する案を考えないと実現させるのは難しいでしょうね。。。
Q.20 英語を聞くことは得意ですが、話したり書いたりすることが苦手です。大学4年間で話せるようになりたいのですが、どうしたらよいでしょうか?
まずは、当ブログの「Speaking 全般」や「Writing 全般」を一度読んでいただけると幸いです。
すでにそれらのページを読んでいただいているかもしれませんので少しだけ追記を。
英語を使えない(話せない、書けない)のは、主に以下の3点が理由です。
①使うことをしてきていない
②使うことに対する強い目的意識がない
③時間をかけていない(継続性がない)
①は長年言われてきましたが、今現在、英語を使う場は日本国内にいても十分確保することができます。
都市部に住んでいるのであれば、外国の人と交流する場は簡単に見つけることができます。
ほかにもインターネットを活用したりすれば、簡単に英語を使う場を見つけることができるでしょう。事実、そのように場を確保している学習者はたくさんいます。
ひと昔前とは異なり、現代はこのような恵まれた状況でありながらも、「英語が使えない」と悩んでいる人が多くいます。
そういった人たちの別の問題点は、「なぜ英語が使えるようになりたいのか」という目的意識の欠如と「それに見合うだけの時間をかけているか」という時間と労力の問題です。
英語を学習する目的は多種多様でしょうが、単に「使えるようになりたい」や「海外旅行のために」といった目的ではなかなか学習は継続できません。
なぜならこれらの目的には「いついつまでに使えないといけない」といった緊迫性や「普段の生活でも使うから」といった常習性がないからです。「そのうち」や「年数回」といった気持ちでは外国語学習を継続させるのは難しいでしょう。
ダイエットで例えるなら、「〇〇キロ以下にならないと命の危険がある」とか「このままでは異性に見向きされない」といった強い目的意識がないと三日坊主になってしまうのと同じです(ダイエットをすぐやめてしまう人は実際目的意識が低いそうです)。
英語を使って何をしたいのか、英語が使えないとどうなるのかといったことをよく考え、明確な目的(ビジョン)を持つのが必要なのです。
しかし最近の研究では、②は最大の要因ではなく、③が最大の要因とされます。実際、②がなくても英語が使えるようになっている人はたくさんいます。
英語が使えるようになった人を調査してみると、ほとんどのケースで③の要素が入っていることがわかっています。
つまり、継続して学習しているかどうかが外国語習得には極めて重要ということです。
日本語が母語の場合、英語とは言語的な距離が相当ありますから、それ相応の時間をかけないと使えるようにはなりません。
しかし、正しい方向に適切な量の時間をかければ必ず使えるようになります。
後は「やるだけ」です。
『言うは易く行うは難し』ではありますが、強い目的意識を持って、継続して英語を学習してほしいと思います。
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そのほかの回答も併せてご覧ください。
「英語学習全般(その1)」
「英語学習全般(その3)」
「英語学習全般(その4)」(現在準備中)
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